◆大魔王行進曲の世界

■世界という名の敵
 昔話に語られるような過去と、明日にも訪れるやもしれぬ未来。そんな日にこの世界はまるで産声を上げるかのように全ての命に牙をむいた。大魔王行進曲は、そんな絶望的とも言える世界を舞台としたTPRGである。
●沢山の終わりと一つの始まり
 後に裁暦元年と呼ばれるその時に全ての始まりは起こった。―『産声』―突如として大気がうねり、大地が震え、大海は荒れ狂った。空には第三天使の喇叭のごとく雷鳴が木霊し、容赦無くその鉄槌を落としていった。
 この時、どのくらいの人々が死んでいったのかは今となっては知る術は無い。99%かもしれないし、それより多いかもしれない。そして”不運にも”生き残った人々は世界が自分たちに牙をむいた事実と、水も空気も自分たちで作らなければ手に入らない絶望的な現実だけを与えられ、この世界に放り出されることとなった。
●街
 では生き残った人々は、いかにしてその不運な生を得たのか。その最大の理由に『街』の存在がある。
 この『街』は一言で言えば特殊なシェルターである。確証は無いが、この事態を数十年前から予見していた何者かたちによって、世界各地で秘密裏に製作が進められていたとされる。
 ともかく人々はこの街によって、真空や地震、温度上昇や雷などの、世界による自然干渉を防ぐことに成功した。
 この『街』の防御壁は、街の最外郭を円状に覆う厚さ11mの『城壁』を起点として球状に展開される半透明の膜である。まあ、一種のバリアと思っていただいてよい。この防御壁と、その中の生活圏をまとめて『街』と呼ぶのである。
 街の内部の構造や、その文明レベルはその街によって異なる。『産声』による被害状況によって様々だと答えるのがよいだろう。中世ヨーロッパのような様相を呈しているものもあれば、近未来の姿を得たものもある。ただ、『街』の防御壁が球状に展開されるため、地上部と地下部に分かれ地上に住居を、地下に街の管理システムを置くのが最もスタンダートな形となっている。
 現在、世界中にどれだけの『街』が存在しているのかはわかっていない。『産声』により街の間の連絡は絶たれ、データもその多くが失われた。人々はこの先も街の正確な数を知ることは無いだろう。
●戦争の開始
 こうして人々は街の防御壁によって平穏な暮らしを手に入れたのだろうか。いや、そうではなかった。むしろ、彼らは新たなる恐怖を手に入れたとすら言える。
 純粋自然生命体『精霊』。この星は、新たな災厄を全ての人間に対してばら撒いたのだ。
 力を拡散させ、より多くの生命を奪う自然干渉と違い、精霊はその身に溜め込んだ力を一点に集中させることに特化した異形の軍勢だった。故に、球体の防御壁でもって自然干渉を受け流すようにして防ぐ『街』にとって、『精霊』はまさしく死の宣告に等しかったのだ。
 精霊は街に進攻し、自らの存在を詠うかのように防御壁に腕を、牙を、放たれし力を突き立てていった。
 眼前に迫りし絶望。
 人々の心が恐怖に染め上げられたとき、精霊の断末魔を賛美歌とし”街の外に”人が降り立った。天空より振り下ろされる雷も、吹き荒れる烈風も彼らの歩みを止めることはできない。彼らは街の防御壁を個人レベル化した『瘴壁』を纏い、たった数体で街に絶望を与えた精霊を次々と屠っていった。
 そして、この日この時、人々を駆逐せんとするこの星と、街を守りこの星を殺す者たち―『魔王』―の戦争は始まったのだ。

■魔法の復活
 自然の恩恵を絶たれた人々の生を繋ぎとめたのは、遺された数々の技術と、それまで歴史の裏で細々と生き続けてきた魔法の存在だった。人々は、己が捨てたものに再びすがったのである。
●精神と理の業
 『産声』によって自然の恩恵が絶たれ、水も空気も作らなければ手に入らない。しかし、そんな無から有を生み出すようなことが可能なのだろうか。可能なのである。
 もちろん正確には無から有を生み出しているわけではない。街のシステムとしては、中で暮らす人々が常時体外に垂れ流している魔力を集め、水や空気、火や電気にしている。なので必然的に文明レベルが高い街ほど人が増え、その結果文明を維持管理する資源が自動的に供給されることになる。命ある限り、人は生きていくことができるのだ。
 街の防御壁や、それを生み出す『城壁』も、魔法と科学の融合の産物である。現在の魔法は、文明のレベルが高いほど機械化が進み、より万人に使いやすく姿を変えている。
 人が魔法を見捨てても、それを伝える者がいる限り魔法は人を見捨てない。かつて誰かが「魔法は人の『生きたい』という想いから生まれたのだ」と言ったそうだが、それも噂の域を出ない。しかしこの言葉は、確かに今に伝わっているのだ。
●スペル・マスター
 文明レベルにもよるが、魔法と科学がかなりの部分で融合した今、『魔法』とは魔力を使った様々な技術やその産物のことを指すようになった。より使いやすく、より万人向けに魔法は進化の道を歩んでいると言えるだろう。
 では、我々が『魔法使い』と聞いてイメージするような、呪文を紡ぎ様々な現象を引き起こす能力者たちはいなくなってしまったのか、もちろんそんなことはない。
 個人が呪文とともに魔力を練り事象を引き起こすことは『魔術』と呼ばれ、人々はそれを扱う者たちのことを『魔術師 ―スペル・マスター―』と呼んだ。
 『産声』以前は歴史の裏に、日常の裏に、常に隠れて生きてきた魔術師たちは、今はその必要も無く普通の人と同じように暮らしている。中には一般人に魔術が流れ出すことを快く思わない保守派というか原理主義者も小数点以下の割合でいるようだが、そもそも街自体が魔法技術の塊なのだから、そんなものはただの選民思想でしかない。
 今、この世界で求められているのは皆で生きていくこと。そして、一人でも多くの人の『生きたい』を叶えるために、魔術師たちはいる。


まだ追加予定だが、今はここまで。というわけで戻る